PROFILE
kaigo×kaigo ツナガル
代表 曽木 達
介護福祉士 介護支援専門員
長く、特別養護老人ホームの介護職員として働いてきた。以前の施設では、30人程の利用者を1人で見る夜勤。
朝7時半の朝食に間に合わせるために、5時には利用者を起こし始める。季節によってはまだ真っ暗の時間だ。でも、5時から起こし始めないと、朝食に間に合わない。
朝食は、1時間もない間に、10人もの利用者の介助をする。1人5分程。鳥の餌やりだってもう少し優しいだろう。
仕方ないことだ。誰かが犠牲にならないといけない。車椅子で起こしておいても自力で動かない人。大きな声を出さない人。そういった人を先に起こして、朝食まで2時間半の間、ただ待たせる。そして、5分で食事を終わらせる。
食事以外の介助も似たようなものだ。入浴も、日中の過ごし方も。
外出の機会は家族が連れ出してくれる人を除けば、受診しかない。エレベーターにはナンバーロックが付いている。
「まるで監獄だね」
利用者さんから何度も言われた言葉。全くその通りだ。
どこの施設も、多少の差はあれ似たようなもの。それが、老人ホームで暮らすということだ。
その中で、とにかく事故を起こさず、病気をさせず、ただ安全に、長生きに。
介護は、現実そういうものだ。
ずっと、そう思っていた。
そんなとき、Twitterであおいけあと加藤忠相さんを知った。
正直、ついていけなかった。やっていることがすごい、素晴らしいのはわかる。でも、自分が働く施設でこれができるとはとても思えなかった。
自分にあおいけあや加藤さんに対して反対意見があるわけじゃない。むしろものすごい尊敬の念を感じた。利用者も、働く人も、ここには生き方として不自然さが見えない。ある意味介護の理想だ。
でもそれは、遠い国のできごとのようだった。
それでも、遠い国には、そんな素敵な介護が実在することを知ったことは、大きなきっかけだった。
また、Twitterでいろいろな人と話していくうちに、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を知った。
こんな暮らしをする高齢者もいるのだ。
私は何も知らなかった。
銀木犀には地域の子供が当たり前のように集い、高齢者と一緒に過ごしていた。
銀木犀には、地域との交流と、役割と、自由があった。
もちろん、銀木犀の中にだって問題はあるだろう。そんなにきれいなことばかりなわけがない。
それでも、根本的な考えとして「監獄」ではないところは、あおいけあの他にもたくさんあった。
Twitterで話せば話すほど、自分が知らなかった高齢者の「居場所」はたくさんあった。
ステキな取り組みも本当にたくさんあったのだ。
その事実は、私の心をとても軽くした。
自分が働く職場は変わらないかもしれない。でも、自分が直接関わらない場所で、高齢者はもっと自分が望むように、もっと主体的に生きていた。その事実が、とても嬉しかった
私の中で、あおいけあも、もう遠くの国ではなくなっていた。
知らなかった幸せを知った私は、以前より幸せだった。私は、自分が思っていたよりも介護福祉士だった。遠い場所の知らない人でも、人の幸せは嬉しい。
幸せを知ることで人が幸せになれるなら、シェアしていきたいと、そう思った。
だから、私は、職場外で介護に関わる人と会うようになった。
2019年4月、KAIGO LEADERSの説明会に参加。そのとき、プログラムに入っていないようなちょっとした雑談で、同じテーブルに座った女性と話しが弾んだ。
この女性が、ある意味私の後の行動を決めた。
彼女は自分と同じく施設勤務の介護職の方で、職場の残業に悩みを持っていた。
私は残業だらけの職場と、残業がない職場、両方の経験があったので、彼女に伝えられることがあったのだ。
聞きたいことがある。
伝えらえることがある。
これだけの関係が、とてもとても楽しかった。
介護に対してポジティブに考えている人が多く集まっている。その事実だけで、とても嬉しい気持ちになれた。
そしてその中で、個人として役に立てる、聞きたいことを聞ける関係がさらに楽しいということを知った。
私ははっきりと気づいた。
幸せをシェアしたい人と、ちょっとしたことでも聞いたり答えたりできる場。それがあれば、人は集まる。
そこにいる人は、きっとその前よりも少し、幸せになれる。
そして、私はそこに一緒にいたい。
だから私は「ツナガル」をつくった。
2019年5月、kaigo×kaigo ツナガル設立